エゾシカ(哺乳類)

 エゾシカは「エゾ」という名前のとおり、北海道(蝦夷)に生息している、日本最大級の体格を持つニホンジカの一亜種です。エゾシカは、夏には牧草地、冬には森林内や道路の法面で採食している姿が見られます。日中に見ることもありますが、朝、夕方、夜に活動のピークがあります。 今や北海道でもっとも身近な哺乳類ともいえるエゾシカですが、私達が彼らと出会う距離はそんなに近くはありません。たまたま数十メートル先で出会った場合は、お尻の白い毛をふくらませ、「ピャッ」という警戒音を鳴らし、高く跳ねるように逃げていきます。サバンナでライオンに追いかけられるシマウマと同じように、食物連鎖でいえば第一次消費者にあたるエゾシカは、長い年月をかけて捕食者に対する行動を進化させてきました。エゾシカにとって現在の主な捕食者は人間ですが、銃やワナなど様々な道具を駆使しても、そうそう簡単には捕まりません。一方で釧路湿原のエゾシカは、他の地域のエゾシカと比べると、比較的のんびりしているように見えます。釧路湿原は鳥獣保護区なので、狩猟者に追われることがないことを体で覚えているのかもしれません。それでも、車から降りて近づこうとすればやはり逃げます。野生動物として、被食者として、本来的に備わった性質なのかもしれませんね。 釧路湿原のコッタロ展望台周辺では、夏から秋にかけてエゾシカを見かけることは少ないですが、越冬地として12月頃から徐々に集まり、雪解けの4月頃まで密集しています。2〜3月には100頭以上のエゾシカを数える日もあります。日当たりがよく雪の少ない斜面にはメスの群れがよく観察されます。エゾシカが採食していた後をたどると、ヨシの枯れた桿の先がすっかりなくなり、掘り返した雪の下には青草を食んだ跡が見つかります。ハンノキやヤナギ類の枝先も食われ、エゾシカの届く範囲の高さの枝がなくなったために「deer line」も形成されています。食べる植物に好みはありつつも、嫌いなものが少ない大食漢のエゾシカが、湿原の植生を衰退させてしまうのではないかと心配です。
(解説:道東地区野生生物室)