『塘路湖で行われている育てる漁業』では、塘路湖(標茶町)で行われてきたワカサギの孵化増殖事業について紹介しています。豊かな自然環境を守ることが、水産資源を守ることにつながるという漁業組合長のお話を、トピックごとにまとめて紹介しています。

該当する単元
  小学校5年 社会 水産業のさかんな地域をたずねて 育てる漁業にはげむ人々
(教育出版)
       
  中学校 地理 北海道地方〜自然環境を中心とした考察
『「とる漁業」から「育てる漁業」へ』
(教育出版)

「塘路湖で行われている育てる漁業」のページについて
  (1) 塘路湖で行われている漁業の概要
  (2) テーマごとのトピック


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 ワカサギの孵化事業は、何十年と続いてきた。1月から結氷した塘路湖上でのワカサギ釣りが解禁となり、3月10日まで続く。その後、孵化事業の準備に入る。3月下旬に網をセットし、4月上旬に親魚の腹が熟してくるので、氷下漁で親魚を捕ってスノーモビル、キャリアダンプ、トラックと載せ替えて孵化場まで運び、卵をしぼる(親魚から卵を出す)。孵化事業が終わって連休明けにはカヌーが始まり(※1)、スジエビ漁をやる。これは観光を行いながらも出来る。9月に入ると試験的にワカサギを捕ってみて魚の状態を見る。成長がよければそこからワカサギ漁を始める。小さいものは佃煮に、大きいものは鮮魚として出荷する。
組合員は30人程いるがワカサギ漁をやっているのは3人。昔は4軒でやっていた。それ以上の数で漁をしてしまうと魚を取り尽くしてしまうので、残りの組合員は加工場を手伝う形にしている。加工は地元のおばちゃん達がやってくれる。ここのワカサギは本州からも注文があり好評を得ている。それは、魚本来の美味しさが評価されていて、脂乗りがよい。そういう魚を維持していかなければいけない。
 
※1)ワカサギ漁だけで生計を立てていくことは難しいため、釧路湿原が国立公園に指定されてから、何度も組合員で集まって話し合いを重ね、カヌーやガイドを行うことにした。これらを漁協中心で行うようになって出稼ぎに行かなくて済むようになり、何とか食べていけるようになった。


孵化場で行われる作業
塘路湖での漁の方法
捕れた魚の出荷先
水を守るために環境を守る
土地を買い取って水源を守る


孵化場で行われる作業

 親魚から卵を採り受精させた後、隣接する孵化槽で孵化を待つ。受精させるには、ただ精子と卵を混ぜ合わせればよいというわけではなく、卵を傷めず受精率をあげるために鳥の羽根を使って行う。孵化槽の水は地下水と川の水を半分ずつ混ぜており、地下水は年間を通して温度が一定なため、その組み合わせが最良であることが専門家の調査からもわかっている。地下水が枯渇したら終わりなので、水源の森を守らなければならない。
 孵化槽は一定の水位になるように出口を板でしきっており、あふれた水は小沢から湖につながっている。稚魚が泳ぎはじめたら仕切り板の上部から小沢までの落差にすべり台の様にステンレスの板を設置し、泳ぎだした稚魚は自然に川に出て行く。湖に出た稚魚はプランクトンを食べて成長していく。湖の水を良く見るとプランクトンが見えるが、サイズは結構大きい。稚魚はこの肉眼で確認できるプランクトンを食べているのではなく、この時期にプランクトンも多く卵を産み、そのプランクトンの子どもを食べて稚魚は育つ。

 

塘路湖での漁の方法
 塘路湖での漁は、地引網と定置網だが、現在は定置網が主。地引網はウグイを捕る時と、地引き網体験の時に行う。地引は岸に魚が寄っていることを確認して行うので、全く入らないということはなく、逆に予想より多く入ることも多い。4回引いて15箱くらい入ることもあり、魚に引かれて船が動き出すこともある程。ワカサギは定置網で捕り、ワカサギに使う網は目がかなり細かい。
 地引き網では、ウグイの他にアメマス、コイ、フナ、カレイ(ヌマガレイ、カワガレイ)、ウナギ、ヤツメウナギなどがあがる。ウグイやアメマスの餌は主にワカサギ。ウグイはこれから(取材日:5月13日)産卵期に入る。アメマスは水温が上がると、アレキナイ川を通って釧路川に出ていくので、夏場は地引をやってもアメマスはほとんど入らなくなり、秋にまた戻ってくる。イトウも生息しており、5月には釣り人があげた。ワカサギも今時期にも湖に入るが、地引に使う網の目は粗いので、3年魚など10cmを超えるサイズでなければ網には入らない。サケは昔上ったが、下流で捕獲するようになったので今は上がって来ない。9月などサケが上る時期に台風などで増水すると川を上るものもいるが、塘路は水温が高いのでサケは入らない。
   

捕れた魚の出荷先
 ワカサギは小さいものは佃煮にし、大きなものは鮮魚として本州にも出荷している。ウグイは活きが良いものは生簀に入れてしばらく生かしながら、釧路市動物園や環境省野生生物保護センター等で使用するエサとして出荷する。夏場は水温が上がって生簀では弱ってしまうので冷凍して出す。コイはコイヘルペスがあるので出荷できない。アメマスについては、燻製に使うなどで頼まれて出荷することもある。
 元々この地域や虹別(標茶町)にはウグイ食の文化があった。昔は秋に寿司にして冬のタンパク源とし、他に塩漬けやぬか漬けにしたり、小さいものは乾燥させて漬物にしたり、様々な食べ方があった。当時は、トラック一杯に魚を積んで農家をまわると1日で全て売れた。フナは腹わたをとって串焼きにして乾燥させ、出汁をとると、乳が出ないお母さんの乳が出るようになった。
   

水を守るために環境を守る
 かつてこの地域にも別荘地開発等の話がいっぱいあった。私は27才で組合長になり、そうした話には、ひたすら反対してきた。こうして反対してきたおかげで水を守ることができた。国立公園になり、開発は漁協だけではなく環境省の許可も必要になった。今になってみれば、対岸には家の一軒もない状況で、私の父親達も私達もずっと反対してきたことで環境を守っていくことができた。それは間違っていなかったと思う。あとは、ここにある資源をいつまで維持していけるかということが課題。
   

土地を買い取って水源を守る

 孵化場横を流れる沢の水源は湧き水で、水源は私が買い取った。他に製紙会社や標茶町がこの沢の水源に土地を持っている。湖の周囲は民有林が多い。私もいくつか土地を農家から買い取っていて、湿原だから比較的安い。それらは湿地なので役にも立たないが、タンチョウが営巣したり、春にはセリやコゴミが出たり、それらを食べられることで満足している。

  湖の奥には昔は炭焼きの人が大勢住んでいた。その頃は、釧路から臨時列車が来る程、塘路はレクリエーションの地として栄えていて、1日に何百人と来た。町内会で頼まれて、地引き網を出した。当時は、釧路から団体で来て地引き網をし、焼き肉をして帰っていった。こうして薪としてこの辺の木はどんどん切られてなくなっていった。それらが、ようやく現在の状態まで回復してきて、一時は枯れた湧水もいろんな場所に戻ってきた。

   

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